なぜアメリカで起業家経済が発展したのか

 創立間もない中小企業での雇用の増加、さまざまな業界での新しいビジネスの勃興など、あらゆる角度から見て、アメリカには起業家経済が生まれている。その原因は4つ考えられる。

(1)知識が集積された

 第1に、今世紀最後の10年が、新技術が1年半ごとに現れていた19世紀最後の10年に似たものとなるであろうことを示す、知識と技術の急速な発展があった。この新技術を基盤とする起業家経済の時代は、始まったばかりである。

 たとえば、教育と学習に関して、500年前に教科書が印刷されて以来の変革が起こりつつある。コンピュータが大きな役割を果たすことは間違いない。だがこの変革の最大の担い手は、100年前に、ドイツのウィルヘルム・ビントやアメリカのウィリアム・ジェームズが「学ぶこととは何か」を問題提起して以来、今日まで蓄積されてきた知識の全集積である。

(2)人口構造が変化した

 第2に、今日サービス産業で起こっていることの底には、人口構造の変化がある。レストラン・チェーンの成長は、共働き夫婦の増加による。成人教育における起業家的ベンチャーの盛況の裏には、第2次大戦後の高学歴人口の増大がある。まったくのところ、人口構造の変化に基盤を置いたベンチャーのほうが、科学技術に基盤を置いたものよりも成功している。

(3)資金の供給メカニズムができた

 第3に、アメリカでは、ベンチャー・キャピタルを供給する独特の仕組みが出来上がった。もはや中小の会社も資金調達に苦しむことはない。今日では、投資に値するベンチャーの資金需要よりも、ベンチャー・キャピタルからの資金供給のほうが多い。

 もちろん、このベンチャー・キャピタル供給のための制度的な仕組みは、すでに幼児期を脱し、たとえば25万ドル以上というかなりの額の資金を消化できる業績のよいベンチャーのためのものである。それでは、生まれたばかりのベンチャーを育てているのはだれか。どのような方法を用いているのか。詳しいデータはない。しかし、事実上、それらの資金は供給されている。

 アメリカでも、そのような資金供給のための目に見えないインフォーマルな仕組みは、20年前、30年前には存在していなかった。ところが今日のアメリカには、統計には出てこないものの、地元の個人投資家がベンチャーの卵に投資するメカニズムが出来上がっている。