イノベーションのための7つの機会

 成功した起業家に共通するものは、性格ではない。体系的イノベーションを行っていることである。イノベーションは、起業家に特有の機能である。既存企業、社会的機関、あるいは家族経営の食堂という小さなベンチャー・ビジネスでも変わらない。イノベーションこそが、起業家が富を生み出すための道具である。

 起業家精神の定義には混乱があるが、ある種の特別な活動に関わる言葉であり、その活動の中心にあるのが、イノベーション、すなわち事業体の経済的、社会的な能力に変化をもたらす仕事である。

 産業の内部には、イノベーションの機会が4つある。そして産業の外部、すなわち社会的、知的な領域にも、3つのイノベーションの機会がある。これら7つのイノベーションの機会は、互いに重複し、それぞれが、リスク、難しさ、複雑さを伴う。だがイノベーションのほとんどが、これら7種類の機会から生まれる。

(1)予期せぬこと

 1930年代の初め、IBMは銀行にコンピュータを売り込んだが、当時の銀行には金がなかった。IBMの創立者でCEOのトーマス・ワトソン・シニアによれば、その時救ってくれたものが、予期せぬ成功だった。最初にニューヨークの公立図書館が買ってくれたのだ。ニュー・ディール初期のその頃、金は銀行ではなく図書館にあった。ワトソンは、各地の図書館に、お蔵入りしてしまうはずだったコンピュータを100台以上売った。

 その15年後、一般企業が給与計算用としてコンピュータに関心を示した。当時最先端のコンピュータを開発していたユニバックは、そのような使い方に拒絶反応を示した。ところがIBMは、この予期せぬ成功に目をつけ、ユニバック型のコンピュータを給与計算という日常用途用に設計し直した。そして5年を経ずして、コンピュータ産業の雄となり、以来その地位を確保することとなった。

 予期せぬ失敗も、イノベーションの機会として同じように重要である。フォード・モーターの〈エドセル〉は、自動車産業の歴史において、新車開発の最大の失敗として知られる。ところが、これがフォードの成功の基礎となった。〈エドセル〉の失敗により、市場の変化に気づき、〈マスタング〉と〈サンダーバード〉の開発につながり、再び自動車市場において、個性のあるリーダー的なメーカーとしての地位を得たのである。

 予期せぬ成功や失敗は、非常に実り豊かなイノベーションの機会となる。なぜならば、競争相手が気に留めず、敵視することさえあるからである。