事業を定義する

 マネジメントの手法がこれほど数多く現れたのは、1940年代末から50年代初めにかけて以来である。ダウンサイジング、アウトソーシング、TQC、経済的付加価値分析(EVA)、ベンチマーキング、リエンジニアリングなど多様である。

 それぞれが有効であるが、アウトソーシングとリエンジニアリング以外はすべて、方法に関わるものだ。つまり、「いかに」行うべきかについての手法である。

 ところがいまや、経営陣、特にこれまで順調だった大会社の経営陣にとっては、「何を」行うべきかが問題である。最近よく聞く話が、つい昨日まで順風満帆だった大会社が、突然、問題と危機に直面し、低迷し挫折する、というものだ。

 その原因はマネジメントの方法が下手だからではない。マネジメントに失敗したためでもない。たいていは事業を正しく行っている。単に実を結びえないことを行っているにすぎない。原因は何かというと、組織の設立とその後の経営に際して基礎とした前提が、現実に合わなくなったことにある。組織の行動を規定し、何を行い、何を行わないかを決め、何を意味ある成果とするかを規定すべき前提が、時代遅れとなったのである。

 これは、私が「事業の定義」と呼ぶものが、もはや有効でなくなったことによる。事業の定義という観点から見ると、これまで成功してきた世界的な大組織が直面している問題を明らかにすることができる。いまこそあらゆる組織がみずからについての定義を持たなければならない。明快で一貫性があり、焦点の定まった定義が組織にとってのよりどころとなる。

 事業の定義は3つの要素からなる。

 第1は、組織を取り巻く環境である。社会とその構造、市場と顧客、そして技術の動向についての前提である。

 第2は、組織の使命である。シアーズ・ローバックは、第1次大戦中から戦後の数年にかけ、一般家庭のためのバイヤーとなることを使命とした。その10年後、イギリスのマークス・アンド・スペンサーは、所得層にとらわれない小売業となることによって、イギリス社会の変革を担うことを使命とした。AT&Tは、第1次大戦中から戦後の数年にかけ、あらゆる家庭と会社が電話を持てるようにすることを使命とした。