(3)完全オンライン・モデル

 高校を卒業したばかりの数十万人もの若者が、最低賃金を得るために働いていることを考えてみてほしい。

 彼らにとって、高騰する大学の学費を払うのは不可能だ。また、大学に通うために仕事を辞めることは望んでいないか、不可能かもしれない。すると年間(たとえば)5000ドル以下の学費で、評判のよい公立大学の学位が取得できるような、良質な大学教育のニーズが存在する。

 最近の大学の経験が、その解決法を提供している。オンライン大学で学位が取得できることは新しい現象ではないが、評判のよい大学がこの分野に参入すれば、ゲームチェンジャーになるだろう。公立大学は以下の問題を議論しなければならない。

・低コストで、質の高い教育を提供するエコシステムをどのように構築するか。大学は通常、入学審査から学位付与まで、すべてを内部で行う垂直統合モデルをとっている。そうではなく、大学はパートナーのエコシステムを活用して、より優れたコア・コンピテンシーを持つ学外の組織に、当該分野をアウトソースすべきだ。たとえば、コンテンツづくりに優れているアウトライアー・オーグ、テクノロジー・プラットフォームのedX、シリコンバレーの教育系スタートアップ(特にVRとARを得意とし、イマーシブなエクスペリエンスを構築する能力があるゲーム業界と関係がある会社)などだ。

・低コストモデルを機能させるために、どのように企業コンソーシアムの協力を得るか。検討すべき戦略を1つ挙げよう。もし企業100社が、2000人の従業員に大学教育を与えるために年間1000万ドルを投資してくれれば、計20万人の学生を集め、年間10億ドルの収入を得られる。非同期的なオンライン授業ならば、ほぼ限界費用ゼロでスケールできるから、年5000ドルという学費設定も経済的に可能になる。

・大学は、教室経験に隣接するどの強みを活用できるか。大学には、ユニークなコンピタンスがたくさんある。高校生を大学進学準備度に基づき選抜する能力、知識創造、教育法、評価、資格(学位)認定、そして質の高いブランド。こうしたコンピタンスを新しい形で応用することはできないか。

 ●迅速な変革は全面的な変革ではない

 デジタルテクノロジーが成熟したからといって、現在の大学システムが時代遅れになるわけではない。小売業を考えるといい。アマゾンは約30年前にeコマースを開始したが、2019年の時点で、米国の小売業の売上高にオンラインが占める割合は9%にすぎない

 それでも、大学のリーダーシップと教員は、新型コロナウイルス感染症のショックに素晴らしい対応を示し、わずか1週間でデジタルプラットフォームへの移行をやり遂げた。

 この夏は、この経験を活用し、大学教育をカスタマイズ可能にし、大多数の人にとって負担可能な金額にする素晴らしいチャンスだ。いまこそ、行動を起こすべきときである。


HBR.org原文:A Post-Pandemic Strategy for U.S. Higher Ed, June 02, 2020.


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