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「総意」による意思決定
日本のトップたちのやり方は、アメリカやヨーロッパの経営者のそれとは驚くほど異なっている。日本の経営者は異なった原則を適用し、異なったアプローチや方策を生み出してきた。これらは、日本の「経済的奇跡」を解くカギとまではいえないものの、過去100年間に日本が驚くほど台頭した大きな要因である。特に、この20年間における日本の経済成長と実績の大きな要因であることは間違いない。
欧米諸国がこれらの方策を真似ることはばかげているし、実際には不可能であろう。なぜなら、日本の伝統と文化に深く根差したものであるからだ。しかし、こうした日本の慣行の底に流れる原則は、欧米の経営者に注意深く研究される価値があると私は信じている。これらの原則は、我々の最も切実な問題に対して、一つの解決の道を示してくれる可能性がある。
日本に関する権威者のすべてが同意する点が一つあるとすれば、それは日本の団体が、企業であれ、政府機関であれ、「総意」(コンセンサス)によって意思決定を行うということである。日本人は、意見の一致を見るまで、組織を通じて一つの提案を討議するといわれる。そして、合意に達した時にのみ意思決定を行う[注]。
意思決定における焦点
欧米人と日本人とでは「意思決定」が指す内容が異なる。我々欧米人が意思決定する際は、問題に対する“答え”にすべての力点が置かれる。
しかし、日本人が意思決定する際に重要となる要素は“問題の明確化”である。意思決定する必要があるのかどうか、何について意思決定するのか、を決めることが非常に重要なステップになる。日本人が「総意」に達することを目指すのは、このステップにおいてである。問題に対する答え、すなわち、欧米人が「意思決定」と考えるものは、問題の明確化の後で行われる。
「意思決定」に先行するこの過程プロセスでは、どんな答えになるかは触れられない。それは人々がいずれかの側に押しやられないようにするためである。ひとたびいずれかの立場を取ると、ある決定は一方には勝利となり、他方には敗北となろう。こうして全過程は、「何を決定すべきか」ではなく、「何について決定すべきか」を探求することに集中される。この結果、行動の変化が必要である(もしくは必要ない)という合意が生まれる。
適任者に付託するプロセス
日本人は、我々から見て意思決定と呼ぶ時点に達すると、それを「実行段階にある」と言う。この時点で、経営陣はその「決定」を「適任者」にまかせる。だれが「適任者」であるかは、経営陣が決める。
解決すべき問題への答えがどのようなものになるかは、その決定に左右される。というのは、「総意」に至る討議の過程で、その問題に対する関係者や関係グループの基本的態度は、きわめて明確になっているからである。経営陣は、どの「適任者」を選ぶかによって、実質的に答えを選んでいるのだ。