人口構造の変化

 政治、社会、経済、会社のいずれにせよ、およそ人間に関わることについては、未来を予想してもあまり意味がない。75年後といわずとも、つい目の前のことについても同じである。だが、すでに起こり、後戻りのないことであって、10年後、20年後に影響をもたらすことについて知ることには、大いに意味がある。しかも、そのようなすでに起こった未来を明らかにし、備えることは可能である。

 世界的な大戦争の再発、疫病の大流行、大隕石との衝突などの大事変がない限り、これからの20年の世界を左右する支配的な要因は、経済でもなければ、技術でもない。それは、人口構造の変化である。とはいえ、会社にとっての問題は、40年ほど前から警告されている地球規模の人口爆発ではない。それは、日米欧の先進国における人口減である。

 先進国はいま、集団自殺をしつつある。人口を維持しうるだけの赤ん坊を生んでいない。理由は簡単である。若い人たちが増大する高齢者人口を扶養し切れなくなったからである。重荷に耐えるためには、被扶養者人口の対極にある子どもの数を減らすしかない。

 先進国のなかでは、人口を維持できる出生率2.4という水準にかろうじてとどまっているのは、アメリカだけである。そのアメリカでも、アメリカ生まれの国民の出生率は、人口を維持しうる水準をはるかに下回っている。また、中南米やアジアからの移民が止まれば、人口は減少に転ずる。

 もちろん出生率の回復はありえないことではない。しかし、今日のところ、先進国でベビー・ブームが再現する兆しはまったくない。しかも、たとえ出生率が、一夜にして50年前のアメリカのベビー・ブーム時の3.0以上という水準に急上昇したとしても、それらの赤ん坊が十分な教育を受け、生産力を持つ成人に育つには、25年を要する。

 つまり、先進国の人口減はすでに起こった事実である。このことはそれぞれの国と社会と経済に当然の結果をもたらす。

(1)あらゆる先進国では、定年、すなわち働くことを強制的にやめさせる年齢が、健康な人については75歳まで延長される。この定年延長は、2010年以前に起こる。

(2)経済成長は、労働力の増加や需要の増大ではなく、知識労働者の生産性の伸びによってのみもたらされる。それは、今日先進国だけが持ち、今後数十年にわたって持ち続けるであろう、唯一の競争力要因である。