(9)逆境をチャンスに変える
中国では、程度の差こそあっても、すべての業種が新型コロナウイルス禍の影響を受けているが、細かく検討すると、需要が伸びている分野も少なくない。消費者向けのeコマース(特にドア・トゥ・ドア型の宅配サービス)、法人向けのeコマース、リモート会議サービス、ソーシャルメディア、衛生関連製品、医療保険などの分野がそうだ。早くも、そうした新しいニーズに対応し始めている企業も多い。
動画共有アプリの「快手(クアイショウ)」(株式時価総額280億ドル相当)は、学校や大学の休校措置に対応するために、オンライン教育を推進している。同社やほかの動画関連企業は、中国教育省と協力して、全国の子どもたちに向けてオンライン教室を開設した。
また、ある大手レストランチェーンは、休業期間を利用して新たな半調理品の商品を開発した。新型コロナウイルス危機により、自宅で食事をする人が増えたことを受けての取り組みだ。
(10)地域の状況に合わせた復旧計画を立てる
ウイルスの感染状況や公衆衛生当局の方針、行政機関の指導内容は地域によって違うので、どのように復旧が進むかも地域によって異なる。しかも、地域による復旧状況の違いを考えるうえでは、自社で採用している地域区分が通用しない可能性が高い。そこで企業には、実際の状況に柔軟に対応することが求められる。
充実した生産基盤と全国規模の流通網を擁する有力乳製品メーカー(売上高は100億ドル規模)は、地域ごとの復旧状況、それぞれの地域における自社のサプライチェーンや営業体制の能力に応じて、柔軟な対応を心掛けた。打撃の大きい地域の工場から出荷する予定だった商品の生産は、段階的にほかの地域の工場に移していった。マーケティング活動、PR活動、予算分配のあり方も、地域ごとの景気回復の見通しや消費者マインド、消費者ニーズに合わせて修正を重ねた。
(11)新しいニーズに応じて素早くイノベーションを行う
顧客ニーズが変われば、自社の商品構成を調整するだけでなく、イノベーションを実行するチャンスも生まれる。危機に直面した企業は防衛モードに入ることが多いが、一部の中国企業は、新しいチャンスをつかむために大胆なイノベーションに乗り出した。
保険といえば、保守的なイメージが強い業界だ。しかし、金融大手のアント・フィナンシャルは今回の危機に対応するために、自社の保険商品に新型コロナウイルス関連特約を無償で追加した。
これは顧客ニーズに応えるものだっただけでなく、オンライン上で自社の存在感を高め、顧客ロイヤルティを改善する効果があった。同社は、2月の保険分野の売上げが前月比で30%増になると予想している。
(12)新しい消費パターンに目を向ける
今回の危機が生んだ新しい動向の一部は、危機が去ったあとも続く可能性が高い。
SARS危機は、中国でeコマースが普及するきっかけをつくったと言われることが多い。同じように、新型コロナウイルス危機も、多くの業種で市場のあり方を大きく変えるだろう。
現時点では、どのような新しい行動パターンが根づくかを見極めるのはまだ難しい。それでも、オンライン教育の普及、医療サービスの提供方法の変容、デジタル上の企業間取引チャネルの増加といった潮流は、定着する可能性が高そうだ。
一部の中国企業はすでに、新型コロナウイルス危機後の世界に向けて、こうした変化を前提に計画を立て始めている。あるグローバルな菓子メーカーの中国部門は、デジタルトランスフォーメーションをいっそう加速させている。バレンタインデーのキャンペーンなど、オフラインの販促活動を取りやめにして、デジタルマーケティング、ウィーチャットなどを通じたキャンペーン、O2Oプラットフォームとの連携に投資を振り向けた。消費者の行動パターンの変化を味方にすることが狙いだ。
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今後は、中国、そして韓国やイタリア、いずれは米国から、さらに新たな教訓が生まれるに違いない。こまめに学習し、ほかの地域の教訓を体系化して実践する企業ほど、社員と会社を守ることができる。変化が速くて不安定な世界では、新しい状況に柔軟に適応し続けるアプローチを危機管理以外にも実践すべきだ。
HBR.org原文:How Chinese Companies Have Responded to Coronavirus, March 10, 2020.
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