DHBR最新号は、「イノベーションの法則」「仕事と子育てのマネジメント」の2大特集です。イノベーションは一般的には、他人事のテーマかもしれません。リーダーシップや人材育成などのテーマが、職種を問わず、万人に受けるのとは対照的です。とはいえ、イノベーションは、経済成長には重要です。
特集1の「イノベーションの法則」では、最初に、ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏にイノベーションの意義を聞きました。フリースやヒートテックなど革新的製品を長年、連続して開発できるのはなぜなのでしょうか。
事業を通して消費者の生活や社会をよりよくしていく、という経営哲学があるからです。グローバル企業にふさわしい人材育成や組織改革に注力する一方で、トップみずからがいまなお服の可能性や服への創意工夫を追究し続ける。その姿勢には、柳井氏が学ぶというホンダやソニー等のイノベーティブカンパニーの創業経営者に通じるものを感じます。
特集の続く論考では、消費者の頭の中を塗り替えるような、従来にはないイノベーション論を展開していきます。
第2論文は、機能面などの革新ではなく、商品のカテゴリーやアイデンティティを変え、消費者の頭の中でブレークスルーを起こす「カルチュラル・イノベーション」を提示します。ファミリカーやペットフードの事例は納得感が高い事例です。
第3論文は、新進気鋭の経営学者が新説、「概念シフト」のイノベーションを論じます。現象に対する人の知覚は概念に基づく、という脳神経科学の知見をもとに、「概念シフト」のイノベーションを「現象や概念が、既知か未知か」の組み合わせで4分類し、各分類の特徴を示した後、市場の価値を長期間独占できる可能性が高い概念創造型イノベーションを起こす指針を論述します。
では、現実に、連続してイノベーションを起こす企業は何をしているのか。この点を、ネスレ日本でCEOを長年務め、数々の画期的商品を生んできた高岡浩三氏(現在、ケイアンドカンパニー代表取締役)に伺ったのが特集4番目のインタビューです。
高岡氏は、イノベーションとは顧客が気づいていない問題あるいは顧客が解決を諦めている問題を見つけ、それを解決することと定義し、その実現には社会変化の「新しい現実」に目を向けることが肝要と言います。
特集1の最後は、ずばり「イノベーションの成功率を劇的に高める方法」。筆者は、多くの歴史的発明にもかかわらず瀕死の状態にあったSRIインターナショナルを復活させた人物。成功要因となった、アクティブラーニングを基礎にした方法論を、具体的に詳述しています。役立ち感の高い論文です。
巻頭論文は、「イノベーションを促すアップルの組織設計」。アップルは、スティーブ・ジョブズが復帰直後の1998年、職能別組織に転換。以来今日までこの組織体制で、独特のリーダーシップモデルを確立し、画期的商品のヒットを続けています。その秘訣をアップル・ユニバーシティ学長らが明かします。
特集2の「仕事と子育てのマネジメント」では、働く親にとっての仕事と子育ての両立について、「働く親が人生の主導権を取り戻す方法」「働く父親も家事と育児の当事者である」「マネジャーは育児中の部下をどう支援すべきか」という3つの論文で複数の視点から論じます。
すべてのビジネスパーソンに読んでいただきたい特集です。そして、思考と行動が変わっていくことが望まれます。