
次代に受け継がれない
マネジメントプラクティスとは
論文や書籍の著者から、『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)に自分の原稿を載せることができないのか、という相談を受けることがあります。
日本版『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)は、HBRの翻訳を主としながらも、日本の課題にあわせて特集を企画し、そこに日本オリジナルの論考やインタビューを加えて展開しています。
HBRに掲載された論文は日本版の翻訳対象になるのですが、日本版からHBRに提案しても、それが採用されるケースはほとんどありません。日本の課題が米国に馴染まないことと、彼らが本当に望む場合は、HBRから直接、著者に連絡が入るからです。
しかしながら、今号において、日本版編集部とHBRとのコラボレーションが実現しました。世界の研究者らの論文集「マネジメントの次の100年に向けた8つの提言」において、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授が寄稿しています。
テーマは「過去100年のマネジメントプラクティスのうち、次の100年に受け継がれそうにないもの、あるいは受け継がれるべきでないものは何か」です。人種や性別、バックグランドの異なる、多様なメンバーがこの問いに答えています。
入山教授は、株主資本主義の限界とそれに関わるマネジメント慣行が廃れることを指摘し、生活協同組合の可能性に言及します。特に、理事を務める「コープさっぽろ」の事例を取り上げて、「協同を重視した資本主義の到来」と述べています。
HBRの歴史を振り返り
マネジメントの未来を読み解く
1922年10月にハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の機関誌としてHBRが刊行され、それから100年が経ちました。この間、マネジメントはいかに進化したのでしょうか。今号の特集「マネジメントの現在・過去・未来──HBR100年」では、HBRの歴史を通し、マネジメントの変遷とその未来を読み解きます。
今号は寄稿者が豪華です。
「『よい仕事』とは何か」では、従業員エンゲージメントの専門家であるマーカス・バッキンガムが仕事の本質に迫ります。「共創を実現するリーダーシップ」では、HBS教授のリンダ A.ヒルらが全日本空輸(ANA)の事例などから、新たなコンセプト「スケーリングジーニアス」を提案します。ビジネスアドバイザーのラム・チャランは、ジャック・ウェルチやジェフ・ベゾスらの経営手法から「組織が成功するために必要なこと」を伝えます。
そのほかにも、HBRの1万本以上の論文をデータ分析してその傾向をみた論文「HBR100年から経営課題の変化を読み解く」や、女性関連論文の歴史的な変化を取り上げた「女性の地位はこの1世紀でどう変化してきたか」もあります。
「世界の経営者は何を考え、どのように実践してきたのか」では、モデルナ、ロレアル、ペプシコなどのCEO経験者8人が登場し、それぞれの経営哲学を披露します。
日本版の100周年連載においては、リーダーシップ論の大家であるジョン P.コッターHBS名誉教授へのインタビューが実現しました。「『生存』と『繁栄』が組織変革のキーワードになる」のはなぜか、ぜひご一読ください。
最後に、HBR Classicsでは、1986年に掲載された竹内弘高・野中郁次郎両氏による伝説的な論文「新たなる新製品開発の方法」を取り上げます。アジャイル・スクラムの原点になった内容は、いまも色あせません。
このように、HBRの歩みを振り返ることで、マネジメントの未来を見据えるうえで大事なキーワードが多く見つかることでしょう。
2023年は我々も数多くのチャレンジをしてまいります。まずはDHBRオンラインのサイトリニューアルを行いました。100周年イベントの準備も進めています。皆様の一助となるべく励んでまいります。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
(編集長 小島健志)