派手さはないが効果のある
物静かなリーダーシップ

 マーチン・ルーサー・キング牧師、マザー・テレサなど偉大なリーダー、とりわけ「モラル・リーダー」の物語は、多くの人に愛される。ただ企業倫理の専門の立場から言わせてもらえば、ビジネスの世界では、最も有能なモラル・リーダーは、モラリティと俗受けするヒロイズムとの間に、きっぱりと一線を画している。

 彼らはスポットライトを浴びて悪を打ち負かす正義のチャンピオンではないし、そうなりたいとも思っていない。辛抱強く、慎重に、少しずつだが着実に前進する。職場での不正を正す、あるいは防ぐ。それらは目立たないように行われ、多くの場合、犠牲者を出すこともない。

 私は、こうした人々を「物静かなリーダー」(quiet leaders)と呼ぶ。その理由は、彼らの控えめな慎み深さこそが、並外れた成果の主要因と考えるからだ。彼らのやり方は、時間がかかるように思われるかもしれない。

 しかし、多くの難問を解決するのは「小さな努力」の積み重ねにほかならないことを考えれば、そうしたやり方こそ企業、ひいては世界をよりよくする近道だといってよい。

 この「物静かなリーダーシップ」は、現実的で効果が高く、しかも持続可能である。物静かなリーダーたちは、ただ一つの劇的な偉業を打ち立てて栄光のうちに名を残すのではなく、無益な争いを避けようとし、いざ闘う時には慎重にことを進めていく。

物静かなリーダーシップの4原則

 4年にわたる調査の結果、物静かなモラル・リーダーは、倫理問題に直面した時や決断を迫られた時に、以下に挙げる次の4つの基本原則に従っていることが明らかになった。

基本原則(1)
性急に事を起こさない

 倫理を左右しかねないジレンマが迫ってくると、物静かなリーダーはしばしば時間を稼ぐ方法を探す。

 これを抜かりなくやれるかどうかが、成功と失敗の分かれ道である。時間が経てば濁った水も澄んでくる。さまざまな関係者や出来事が錯綜するとらえにくい状況を分析することも、一定のパターンを見つけ出し、事件の流れのなかから解決の糸口を探ることも、可能になるだろう。