学習するチームを構築する

 我々は、16の主要医療センターの心臓外科チームが「低侵襲心臓外科技術」(MICS)と呼ばれる困難な新しい手術法を採用する過程を調査した。この調査から、成果を決定づける一つの重要な要因が浮かび上がった。それは、新しい作業方法に対するチームの適応能力である。

 企業の場合、チームは、しばしば業務効率化のために開発された新しい技術やプロセスを習得しなければならない。しかし、その効果が表れず、効率が前よりも落ちるケースがよくあり、時にそれが長期にわたることもある。チーム・メンバーにとって、深く身についたルーチン作業の手順を変えるのは難しい。また、新しい役割やコミュニケーションになかなか適応できない場合もある。

 ほとんどのチームは、時間が経つにつれ、新しい業務内容や作業プロセスに熟達していく。しかし、新しい手法の習熟に好きなだけ時間をかけられるわけではない。新しい取り組みに時間がかかり、もたついている間に、競争相手は新技術によって大きな成果を上げているかもしれない。さらに新しい技術が出現し、自分たちが現在導入中の技術さえ、実際に機能する前に時代遅れになってしまうこともある。

 今日のチーム・マネジメントの課題は、単に既存の作業プロセスを効率化するだけでなく、新しいプロセスや手法をできるだけ素早く取り入れることにある。

 病院であろうと、オフィスであろうと、チームの動きを速めることは容易なことではない。我々の調査の目的は、あるチームはなぜ経験を積むごとに他のチームよりもはるかに多くを学び、より早く習熟できたのか、その根拠を解明することであった。

 調査の結果、学習の成否は、どのようにチームが編成され、またそのチームがいかに各メンバーの経験を生かすか、すなわち、チームの編成計画とマネジメントに帰することを発見した(囲み「チーム学習を促すリーダーの心得」を参照)。

チーム学習を促すリーダーの心得

迅速な環境づくり

 チーム学習を促進する環境をつくるのは難しいことではないが、チーム・リーダーの迅速な行動が必要である。社会心理学者によると、人は、チーム・メンバーとしてどのような行動が求められているのか、その手がかりを求めて自分の上司を注意深く観察する。そして観察による印象は、グループやプロジェクトがスタートしてすぐに形成される。そこで学習に最適な環境をつくるために、リーダーは次の3点に注意しなければならない。

(1)近寄りやすい環境をつくる

 チーム・メンバーの意見を歓迎し、また尊重していることを明らかにするために、リーダーは、チーム・メンバーが自分に気軽に近づける体制をつくらなければならない。超然としていてはだめだ。

 成果を上げたチームの看護師は、自分のリーダーについて次のように語る。「すぐ隣のオフィスにいつでもいて、どんな質問でもばかにしないで、ていねいに答えてくれます」

(2)意見を積極的に求める

 チーム・リーダーがメンバーの意見を積極的に求めることにより、情報共有の精神はいっそう強化される。成果を上げたあるチームの外科医について、「彼は、何かおかしいところがあったら、すぐに自分に、そしてチームの全員に知らせるように指示していました」と同チームの灌流技師は言う。

(3)みずから「だれにでも間違いはある」ことを示す

 チーム・リーダーは、自分の間違いをチーム・メンバーに認めることにより、学習に適した環境をさらに助長することができる。

 たとえば、ある外科医は自分の間違いを率直に認めた。そのチームのメンバーは、その外科医について、こう説明する。「彼は、『へまをやった。あの時の自分の判断は間違いだった』などと言ったりします」。こうした言動によって、この外科医はチーム・メンバーに、非難を恐れずに間違いや疑問を率直に話すことができることを示したのである。

 新しい手術法を最も短時間で学習したチームは、共通する3つの基本的な特徴を備えていた。

(1)学習を目的としたチーム編成であった。