木村:クリエイティブを教えるという専門機関としては美大がありますよね。

佐藤:それはそうなのですが、美大で教えるクリエイティビティは、人の手でモノを形にするというバウハウス的な発想。でも、例えば、フェイスブックとかネットオークションの第2落札価格とか、そういった世の中を革新していくアイデアは美大を卒業した人から生まれたわけではないですよね。

 だから、過去にバウハウスがデザインを育てたように、全ての大学にアイデア学部を作ってアイデアや発想を体系的、実践的に教えるべきだと思うんです。木村さんがカンヌで行ったスピーチも、カオスな時代にクリエイティブジャンプで革新的なソリューションアイデアを生み出す技術を体系化したものでしたよね。

木村:そうです。効率を高める「改善」はロジックの領域ですが、新しい価値を生み出す「革新」はアイデアの領域なのです。だから僕も理系、文系、美術系といった大学の学部の概念は再構成されるべきだと思うし、実際いくつかの大学はそういう方向に動き始めています。では最後に、クライアントと広告会社はどう変わっていくべきだと思いますか?

佐藤:20年前はマーケティング部がある会社なんてほとんどなかったけれど、今はほとんどの会社にマーケティング部があるように、20年後は全てのクライアントにクリエイティブ部ができてもおかしくないと思います。そして、広告会社はアイデア会社に生まれ変わって、ザ・クリエイティブ・インダストリーを牽引していくのです。

木村:やっぱりなんで「ザ」がついているのかよくわかりませんが、勇気が出るビジョンだからいいことにします(笑)。 THE DAYもケトルも、社会におけるアイデアの価値を今よりもっと高めるためのチャレンジという意味では同じ方向を向いていますね。

佐藤:僕らが今取り組んでいることは、きっと、ザ・クリエイティブ・インダストリーの確立につながっているんだと思います。

木村:ありがとうございました。最終回、長い対談になってしまいましたが、広告の未来が見えてきた気がします。最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました。

(木村健太郎)

 

【連載バックナンバー】
第1回 「広告は変われるか?」と聞かれ、僕らは「広告は変わります」と即答しました。
第2回 広告業界の変化を知るための3つのキーワードと 嶋浩一郎のちょっと意外な予測と妄想
第3回 カンヌで木村健太郎が佐藤カズーに、「広告は進化できるか」と聞いてみた。 
第4回 カンヌで嶋浩一郎が戦略PRの専門家・井口理に「PRのこれからはどうなるのか」聞いてみた。
第5回 カンヌで木村健太郎が岸勇希に、「ストーリーが切り開く広告の未来」を聞いた
第6回 カンヌで嶋浩一郎が中村洋基に、「モバイル部門がすごかった」理由を聞いてみた。
第7回 嶋浩一郎がVoiceVisionを立ち上げた大高香世にソーシャルの声を企業の広告活動に、どう活かすのか聞いてみた