『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)では毎月、さまざまな特集を実施しています。本稿では、最新号の特集2「中国とどう向き合うか」への理解をさらに深めていただけるよう、関連する過去の論文をご紹介します。

 DHBR2021年8月号の特集2は「中国とどう向き合うか」。欧米のリーダー層を中心に、中国の驚くべき経済成長に伴い、政治もリベラルになっていくはずだと考える人は少なくない。だが、そのような見方は大きな誤解に基づいている。米中デカップリングの渦中にあって、どのように中国と向き合うべきか。

 中国はこの30年で驚くべき成長を遂げ、世界第2位の経済大国となった。著しい経済発展は安定した共産主義のルール下で実現したものだが、いまだに欧米のリーダー層を中心に「経済の成長に伴い、政治もリベラルになっていくはずだ」と考える人が少なくない。

 これは誤解であり、中国とビジネスをするうえでも大きな障害になると、オックスフォード大学教授のラナ・ミッター氏らは言う。「中国はなぜ欧米に倣わず経済成長できたのか」では、欧米社会に根強くある中国をめぐる3つの重要な誤解を中国研究の第一人者が解説する。

 トランプ政権の対中強硬政策に比べれば、バイデン政権では対立姿勢が和らぐ可能性は高く、これまで中国投資を進めてきた米国企業のCEOたちは期待を高めている。だが、中国サイドはデカップリング戦略を着々と進めており、それは中国で事業活動を行うすべての外国企業に多大な影響を及ぼすだろう。

 INSEAD教授のJ. スチュワート・ブラック氏らによる「米中デカップリングは事業戦略にいかなる影響を与えるのか」では、今後直面しうる課題と対策について、4つのカテゴリーに分けて説明する。

 中国の競争力は年々高まり、いまや米国と肩を並べるまでに成長した。その原動力となっているのが、イノベーションだ。ただし、米国のように革新的な製品やサービスを供給し続けているわけではない。

 何億人もの消費者がイノベーションを瞬く間に受容し、その劇的な変化に順応できる力が、中国の競争力につながっている。政府の強力な後押しもあり、他に類を見ない指数関数的な急成長を経験したことで、人々のイノベーションに対する受容力と順応力が高まり、それがさらなる経済成長をもたらすという、独自のエコシステムが構築されているのだ。

 ヤング・チャイナ・グループ創業者のザック・ダイクウォルド氏による「中国のイノベーションの源泉はどこにあるのか」では、このような発展のエコシステムの仕組みを明らかにし、中国との差を縮めるために他国のビジネスリーダーが何をすべきかを示す。

「中国の権威主義がもたらした繁栄と限界」では、中国、日本、米国の政治・経済を長年研究してきた日本総合研究所上席理事の呉軍華氏が、前半では前述のHBRによる3つの論文を論評し、後半でそれらの視点から現在の中国を分析する。

 論評では、中華人民共和国誕生以来の欧米の誤解を指摘し、古代からの権力構造にマルクス=レーニン主義が付加された中国独自の権威主義支配体制を解説。それが今日の成長を支える構造と、内在する限界を明かしたうえで、外国資本の対中国戦略の要諦を提示する。