CEOの計り知れない困難

 新任CEOは、長年の目標へとたどり着き、キャリアの頂点に上り詰めたという喜びもつかの間、その職務をこなすのは、予想をはるかに上回る困難がつきまとうことを思い知らされる。

 我々は、ハーバード・ビジネススクールの新任CEO向けワークショップで大手企業の新任CEOたちに接するなか、彼らが直面する意表が大きく分けて7つあることに気づいた(図表「CEOの備え」を参照)。これらをいかに早く認識し、受け入れ、立ち向かうかが、CEOとして大成できるかどうかを左右する。

図表 CEOの備え

 就任当初、CEOは当惑続きである。予想もしなかった、初めて経験する役割をこなさなくてはならない。時間も情報も限られている。社内外の人間関係に変化が生じる。そこで、新任CEOが一様に直面する「7つの意外」について、それぞれの警告サインを紹介する。これは軌道修正をしなければならないというサインである。

Surprise 1|経営を担っているのはCEOではない
【警告サイン】

→会議が多すぎる。
→会議では実務的な戦術に関する議論にばかり巻き込まれる。
→CEOみずからが自分の時間を管理する余地がまったくない。

Surprise 2|命令を下すことはリスクが高い
【警告サイン】

→CEOがボトルネックとなって社内の業務が滞る。
→部下たちが、「行動する前にはまず相談」とばかりに、ことあるごとに相談してくる。
→社内に「CEOがこう言ったから」という、CEOのお墨付きをちらつかせるセリフが横行している。

Surprise 3|社内の現実を把握できない
【警告サイン】

→「寝耳に水」の情報ばかりが上がってくる。
→起こってから初めて知る出来事が多い。
→懸念や異論が、直接ではなく、間接的に耳に入ってくる。

Surprise 4|CEOの言動一つひとつがそのままメッセージとなる
【警告サイン】

→自分の行動について、噂が社内を駆けめぐっている。
→周囲の人々がCEOの顔色をうかがおうとしているようだ。

Surprise 5|取締役会は「上司」である
【警告サイン】

→取締役会との関係が良好かどうか、量りかねる。
→経営陣と取締役会メンバーの役割や責任の分担があいまいである。
→取締役会で議論されるのは、経営陣の意思決定や業績に関する報告がほとんどである。

Surprise 6|企業の目標は短期利益の追求ではない
【警告サイン】

→経営幹部や取締役会は株価への影響ばかりを気にして意思決定する。
→事業内容を十分に理解していない証券アナリストが、長期的な業績を損ないかねない戦略を要求してくる。
→経営者報酬の株価連動部分の比率がきわめて高い。

Surprise 7|CEOといえども一人の人間にすぎない
【警告サイン】

→インタビューでは、会社についてよりもむしろ自分について語ることのほうが多い。
→CEOは他の執行役員と比べて大きな特権が与えられており、プライベートも華美である。
→仕事以外の活動に従事していない。

1. 経営を担っているのはCEOではない

 新任CEOの大多数が、花形事業部門のトップを務めていたか、COOの座にあったことだろう。彼らは事業運営の手腕に長け、全社の経営を担う機会に恵まれた時、さぞや心を躍らせたのではないか。ところがCEOに就任したその日から、それは仕事の一部にすぎないという現実に直面する。

 事業運営について熟知しているつもりでいるが、次々と課題を突きつけられ、瞬く間に自信を喪失する。ましてや社外からは膨大な量の厳しい注文が寄せられ、多くの新任CEOが茫然自失の状態に陥ってしまう。

「とにかく時間がない」のが共通の悩みである。CEOは、株主、証券アナリスト、取締役会のメンバー、業界団体の要人、政治家など、さまざまなステークホルダーと会わなければならないが、社外のステークホルダーへの対応が困難であることを痛感させられる。

 採用や解雇、昇進、報酬額などに関する最終権限もCEOにある。しかし実際には、実務に携わる部下たちにその権限を委譲せざるをえない。事業運営を成功させる責任を負っているにもかかわらず、大規模で複雑な組織の意思決定を一手に引き受けることはできないのだ。

2. 命令を下すことはリスクが高い

 CEOは、組織最大の権力を有するが、一方的に命令を下したり、社内からの提案をむげに退けたりすれば、手痛い目に遭う。