
DHBR2023年6月号の特集は「『お客様』から社員を守る」。カスタマーハラスメントが最前線で働く社員たちを追い詰めている。顧客のぶしつけな振る舞いを放置すれば、社員の心身の健康に重大な悪影響を及ぼすだけでなく、組織に無礼な言動を許す文化を助長し、企業の業績を低下させるリスクもはらむ。このますます深刻化する問題に、企業がどのように対処すべきか考える。
マスク着用をめぐって怒鳴る航空機の乗客、人種差別的な言葉を投げつけるカフェの客……顧客のぶしつけな振る舞いが世界中で深刻化している。惨憺たる状況だ。しかも、この種の無礼は風邪のごとく周囲に伝染する。じかに被害に遭った従業員だけでなく、目撃した人にも悪い結果をもたらし、企業にもしわ寄せが行き、ひいては社会全体に累が及ぶものである。
ジョージタウン大学マクドノースクール・オブ・ビジネス准教授のクリスティーン・ポラスによる「顧客の無礼な振る舞いから最前線で働く従業員を守る方法」では、こうした状況に組織としていかに対応すべきかを考える。
現場の最前線に立つサービス業従事者は、常に明るく笑顔で接客することが求められている。だが、顧客の無礼な振る舞いは、彼らの心身に害を及ぼしており、放置すると組織のパフォーマンスを落としかねない。
「感情労働の負担をどうすれば軽減できるのか」では、心理学者のアリシア A. グランディらの研究をもとに、こうした感情労働がもたらす苦痛の実態を明らかにする。組織として従業員をどうサポートすべきかといった問いに対して、グランディは従業員に自主性を与え、その感情労働に見合った報酬を支払うべきだと述べる。
顧客や同僚から無礼な物言いをされた時、どのように対処すべきか。反応を示すことで状況を悪化させるリスクもあるが、何もせずに見過ごせば、無礼な振る舞いを助長する可能性もある。
『ハーバード・ビジネス・レビュー』寄稿編集者のエイミー・ギャロによる「職場での物言いに傷ついた時の対処法」では、そのような事態に直面した際、自分にとって最善の判断を下すための具体的な助言を提供する。
顧客による無礼な振る舞いを見過せば、従業員のエンゲージメントとパフォーマンスの低下を招き、最終的には顧客満足度の低下をもたらす。また、顧客はサービスの共同生産者であるため、相互の適切なやり取りがなければ、その品質が向上することはない。企業が「お客様は常に正しい」という行動原則を頑なに守り続けることは、企業にとっても、従業員にとっても、顧客自身にとっても問題である。
ブリティッシュコロンビア大学サウダースクール・オブ・ビジネス教授のダニエレ D. ファン・ヤールスフェルトらは「顧客も従業員のように管理できる」の中で、顧客によい振る舞いを促すには、顧客を従業員のように管理すべきだと主張する。
顧客満足度、イノベーション、製品の品質、サービスエクセレンスに最大の違いをもたらすのは、最前線の従業員たちである。しかし多くの企業で、フロントラインワーカーは権限を与えてサポートすべき資産ではなく、管理すべきコストとして扱われており、その重要性が理解されていない。
ハーバード・ビジネス・スクールのエグゼクティブフェローのビル・ジョージによる「経営者こそ、最前線の従業員と積極的に関わるべきだ」では、組織図を変えることで、フロントラインワーカーの役割を見直す「象徴的な変化」と、CEOが彼らと過ごす時間を増やす「実践的な変化」の2つを起こすことを提案する。そのうえで、実際にそれらを実践するベスト・バイやゼネラルモーターズ(GM)の経営者らの事例を示す。