顧客経験とは何か

 事業活動の中心に顧客経験を据えている企業は少ないが、顧客満足度の測定ならば、これまで多くの企業が取り組んでおり、そのデータも豊富にある。問題は、顧客満足度を測定しても、それを改善する方法がわからないことだ。

 顧客満足度とは要するに、複数回にわたる顧客経験の総合結果であり、プラスの経験とマイナスの経験の和ともいえるだろう。顧客満足は、顧客の期待と経験とがうまく一致した時に高まる。顧客満足度を理解するには、それを構成する複数の顧客経験に分解してみる必要がある。

 では、顧客経験とは何か。それは、「ある企業との直接的ないしは間接的接触によって顧客が示す内的かつ主観的な反応」のことである。

 直接的接触は一般に、購入、使用、サービスを受ける際に生じる。顧客側の何らかの行為によって起きるのである。間接的接触は通常、製品やサービス、ブランドに関する情報に、顧客がたまたま接触した際に生じる。称賛や批判といった意見をクチコミによって聞く、広告やニュース、評価を読むことなどもそれに当たる。

 実例を挙げれば、検索しようと開いたグーグルのホームページで、ロゴのデザインが祝日にちなんだものになっていた、あるいはハーレーダビッドソンのバイクが発する独特の排気音を耳にしたといった具合である。

 顧客経験は、CRM(顧客リレーションシップ・マネジメント)とは異なる。端的に言えば、CRMデータとは、特定の顧客について何を知っているのかである。たとえば、要求仕様、返品、問い合わせなどの履歴がそうだ。一方顧客経験データは、顧客がその企業に抱いている主観的な印象を収集したものだ。つまり、CRMは接触後の顧客の行動をとらえ、CEM(顧客経験マネジメント)は接触時の顧客の反応をとらえるのである。