『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)では毎月、さまざまな特集を実施しています。本稿では、最新号の特集「ステークホルダー資本主義」への理解をさらに深めていただけるよう、関連する過去の論文をご紹介します。

DHBR2021年10月号の特集は「ステークホルダー資本主義」である。
経済危機やパンデミック、大規模災害、人種差別、地政学リスクの高まり……世界が危機に直面する中、株主利益の最大化を目的とする資本主義のあり方が見直されている。ビジネスや社会の持続的な繁栄のためには、リーダーが株主だけではなく、すべてのステークホルダー(従業員、顧客、仕入先、地元コミュニティ)に貢献しなければならない。
そのように説くのが、「ステークホルダー中心のリーダーシップが資本主義を再構築する」の著者であり、家電量販店大手のベスト・バイ前会長兼CEOのヒューバート・ジョリー氏だ。良い時も悪い時も、崇高な目的(ノーブル・パーパス)を追求し、企業戦略の中心に人を置き、従業員一人ひとりが成長できる環境をつくるという、ステークホルダーを中心としたリーダーシップの発揮がいま、求められている。
2019年8月、米国有数の大企業を代表する180人以上のCEOが、もはや他のステークホルダーを犠牲にして株主だけに尽くすことはできないという、画期的な声明を発表した。
だが、コロナ禍で起きたことはその逆であり、約束は裏切られた。権力の集中が格差や生態系の崩壊を招いていることは確かであり、現在のビジネスの進め方を変えない場合、社会と地球の破壊がさらに進む。いまこそ、企業は変わらなければならない。
ハーバード・ビジネス・スクールのジュリー・バッティラーナ教授らは「経営の意思決定権をステークホルダーで分かち合う」の中で、そのような問題を提起した。
パーパス経営の旗手と目されていたダノン会長兼CEOエマニュエル・ファベールはなぜ解任されたのか。それはステークホルダー資本主義の挫折、そして株主利益第一主義の勝利を意味するのか。
現代社会や地球が直面する危機は相互に絡み合っており、これほど大掛かりなシステムの改革をたった一人のヒーローが行うのは無理である。先見の明に長けたCEOが退任してもその取り組みが続くよう、組織で取り組むべきである。
オックスフォード大学サイード・ビジネススクールでシニアリサーチフェローを務めるメアリー・ジョンストン=ルイス氏らによる「パーパス経営の実践に英雄はいらない」では、そのための4つの原則を紹介する。
スタートアップでは事業の成長を第一に考え、パーパスの追求がないがしろにされることは少なくない。ハーバード・ビジネス・スクールのランジェイ・グラティ教授によれば、これは見当違いで、成長とパーパスは同時に両方追求することが可能であり、そうすることによって組織内外に好循環が生まれるという。
「なぜスタートアップの成功にはパーパスが欠かせないのか」では、米国で急成長したスタートアップ創業者への聞き取りを踏まえ、成長とパーパスを両取りすることで得られる3つの利点を提示する。
ステークホルダー資本主義では、従業員や顧客、取引先、地域社会などをステークホルダーと見なすことが多い。しかし、見逃されがちだが重要なステークホルダーとして「気候」が存在する。企業は気候というステークホルダーに対してどのような姿勢で向き合えばよいのだろうか。
アスペン・スキーイング・カンパニーでバイスプレジデントを務めるオーデン・シェンドラー氏は「企業は『気候』というステークホルダーを忘れていないか」の中で、企業は「気候の公平性」を理解したうえで問題に対処すべきだと主張する。
気候の公平性とは、すなわち気候変動問題と公平性の問題は同じ要因を持つとする考え方だ。これを理解し、気候変動問題に臨むことで、企業は事業を展開する経済環境を再構築し、同時に顧客の重要な課題を中心にブランドを再構築する機会も得られる。
味の素は、CSV(共通価値の創造)の同社版ともいえる「ASV」(Ajinomoto Group Shared Value)を全面に押し出して、より本質的な社会価値と経済価値を追求するASV経営を進めている。
これはまさにステークホルダー主義を先取りするものといえるが、この改革を先導するのが西井孝明社長だ。「食と健康の課題解決」というパーパスを掲げたうえでビジョンを見直し、5つのポイントで変革を実行しているものの、当初は社内でもなかなか理解されなかったという。
「パーパスドリブン組織への変革で真のステークホルダー主義を実践する」では、従業員と顧客、投資家・株主といったすべてのステークホルダーの価値向上を同期化することを目指す西井社長が、いかにして社内を巻き込み、変革を進めてきたのかが語られる。