
DHBR2023年2月号の特集は「マネジメントの現在・過去・未来――HBR100年」。1922年10月に誕生した『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)。創刊から1世紀の間に、経営思想はどのような変遷を遂げてきたのか。HBRの歴史を振り返りながら、次の100年を生き抜くヒントを示す。
イノベーションを起こすうえでこれからのリーダーに求められる資質や能力とは何か。「共創を実現するリーダーシップ」の筆者であるハーバード・ビジネス・スクール教授のリンダ A.ヒルらは以前より、一人の天才に頼るのではなく、組織にちらばる才能の片鱗を集めて統合した「集合天才」(コレクティブジーニアス)を生み出す重要性に着目してきた。
その後の研究で、組織の垣根を超えた取り組みを促すリーダーシップの必要性が明らかになった。これからのリーダーには「建築家」「橋渡し役」「触媒」と呼ぶ役割があるという。すなわち、イノベーションに必要な社内外の人材やツールにアクセスし、多様な人材のコラボレーションを促し、実験し、ともに学ぶ「共創」を実現する役割だ。
組織が長期的に成功するためには、外部環境の変化のスピードとその特徴に適応するしかない。ラム・チャランの「組織が成功するために必要なこと」を通じて、HBR誕生後の1世紀にわたる、これまでの組織のあり方を振り返るとともに、先を見通す時間を取り、今後成功する組織の姿とはどのようなものかについても認識しておくべきであろう。
HBRがその100年の歴史の中で提唱したトピックにはどのような変遷があったのか。「HBR100年から経営課題の変化を読み解く」の筆者らが、1922年の創刊号から2021年までの全記事、計1万4777本を対象に調べたところ、大きく3つの時期、3つの主要な変化のパターンが見られることが判明した。
近年、人間と仕事との関係が変化しているという指摘が増えている。夢中になって働く人がいる一方、仕事を労苦と見なす人もいる。マーカス・バッキンガムによる「『よい仕事』とは何か」では、そもそもよい仕事とは何か、誰がよい仕事に就いているのかを調査で明らかにしつつ、未来の仕事の姿を描く。
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン教授のマリアナ・マッツカートは、今日の企業は、パーパス志向を掲げ、ステークホルダー価値の創出に力を入れているが、実はその変革のパワーは薄れてきていると指摘する。
このステークホルダー資本主義の行き詰まりの原因は、金融セクターの自己投資傾向と企業の自社株買いであるとし、この状況を打破するには、真の公共価値を中心に据えるミッション主導の投資を活性化する、マッツカートの言うところの「ミッション・エコノミー」が必要だとする。
「企業がこれからの社会で担うべき役割」では、民間のパーパスと公共のミッションが結び付くミッション・エコノミーの下でどのように価値を創出し、分配していくべきかを論じる。
HBRは現在、すべてのジェンダーの読者に向けて、偏見や差別、ワークライフバランス、ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DEI)などの経営課題を取り上げたさまざまな論文を掲載している。しかし、創刊された100年前は、男性経営者を中心的な読者に据え、女性はその対象と考えられていなかった。
ハーバード・ビジネス・スクールのジェンダー・イニシアティブ ディレクターを務めるコリーン・アマーマンらによる「女性の地位はこの1世紀でどう変化してきたか」では、HBRがビジネス界における女性を取り上げてきた歴史をたどり、その地位がどのように変化したかを明らかにする。
リンダ L. カーリ ウェルズリー・カレッジ 客員准教授この論文を読む
近年、社会、環境、健康、経済の危機が次々と起こり、リーダーは日々直面する問題に目を奪われがちである。しかし本来、リーダーは狭い視野ではなく、物事の全体像をとらえる必要がある。
「マネジメントの次の100年に向けた8つの提言」では、過去100年でマネジメントプラクティスがどのように変化してきたのか、そして次の100年にどのような変化が起こりうるのか、世界各国の専門家8人の見解をまとめた。大局的かつ多様な視点を提示する。
HBRは創刊以来、優れたマネジメントの思考を紹介するだけでなく、リーダーがその思考を実践するための支援を行ってきた。「世界の経営者は何を考え、どのように実践してきたのか」では、創刊のミッションに立ち戻り、モデルナ、ロレアル、セルテル、ペプシコなど、世界を代表する企業8社の現役あるいは元CEOが、みずからのキャリアや組織に前進をもたらすうえで役立ったアイデアについて、実際の経験を交えながら語る。